数式で独楽する

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Σx^n/n! の性質 その2 引数の和

\begin{eqnarray}
\exp x &:=& 1 + \frac{x}{1!} + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \cdots \\
&=& \sum_{n=0}^\infty \frac{x^n}{n!}
\end{eqnarray}
で定義する関数 \exp xについて考えます。

指数関数のマクローリン展開 - 数式で独楽する
では指数関数を級数に展開しましたが、級数で関数を定義すると指数関数と同じものになるのかどうかを見ていきます。

本稿では、引数に和を入れるとどうなるかを考えます。

定義に従って$\exp (x+y)$を計算していきます。
\begin{eqnarray}
\exp (x + y) &=& \sum_{n=0}^\infty \frac{(x + y)^n}{n!} \\
&=& \sum_{n=0}^\infty \sum_{p+q=n} \frac{1}{n!} \, \frac{n!}{p! \, q!} \, x^p \, y^q
\end{eqnarray}
1行目から2行目への変形は二項定理を用いています。
二項定理 - 数式で独楽する
順列・組合せ - 数式で独楽する

式では$n!$が約分で消えてしまいます。2つある和の記号がどうなるか見ていきます。

$p,q$は、2つ目の和の記号にあるように、
\begin{equation}
p + q = n
\end{equation}で拘束されています。
図で表すと、次のようになっています。
f:id:toy1972:20200509201858g:plain:w300
破線は$p,q$が
\begin{equation}
p + q = 0, 1, 2, \cdots , n, \cdots
\end{equation}に拘束されていることを表しています。
ここで、$n \to \infty$とすると、それぞれ
\begin{equation}
p \to \infty , \quad q \to \infty
\end{equation}となります。
よって、
\begin{eqnarray}
\exp (x + y) &=& \sum_{n=0}^\infty \sum_{p+q=n} \frac{1}{n!} \, \frac{n!}{p! \, q!} \, x^p \, y^q \\
&=& \sum_{p=0}^\infty \sum_{q=0}^\infty \frac{x^p \, y^q}{p! \, q!} \\
&=& \left( \sum_{p=0}^\infty \frac{x_p}{p!} \right) \left( \sum_{q=0}^\infty \frac{y^q}{q!} \right) \\
&=& \exp x \cdot \exp y
\end{eqnarray}を得ます。*1

つまり、
\begin{eqnarray}
\exp x &:=& 1 + \frac{x}{1!} + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \cdots \\
&=& \sum_{n=0}^\infty \frac{x^n}{n!}
\end{eqnarray}
で定義する関数 \exp xは、
和を引数に入れると積を返します。私たちのよく知る指数関数の性質と同じです。

余談ですが、アインシュタインの縮約記法風に、
アインシュタインの縮約記法 - 数式で独楽する
\begin{equation}
\exp x = \frac{1}{n!} \, x^n
\end{equation}と書くと、添字の重複で和の記号を省略して、スッキリと
\begin{eqnarray}
\exp (x + y) &=& \frac{1}{n!} \, (x + y)^n \\
&=& \frac{1}{n!} \frac{n!}{p! \, q!} \, x^p \, y^q \\
&=& \frac{1}{p! \, q!} \, x^p \, y^q \\
&=& \frac{1}{p!} \, x^p \ \frac{1}{q!} \, y^q \\
&=& \exp x \cdot \exp y
\end{eqnarray}となるのですが、こういう変形を認めてくれる人はいないと思います。

*1:$a_p, \, b_q, \, c_n$を \begin{eqnarray} a_p &=& \frac{x^p}{p!} \\ b_q &=& \frac{y^q}{q!} \\ c_n &=& \sum_{k=0}^n \frac{(x + y)^n}{n!} \end{eqnarray}とすると、 \begin{eqnarray} c_n &=&& a_0 \, b_0 \\ &&+& a_1 \, b_0 &+& a_0 \, b_1 \\ &&+& a_2 \, b_0 &+& a_1 \, b_1 &+& a_0 \, b_2 \\ &&+& \vdots && \vdots && \vdots && \ddots \\ &&+& a_n \, b_0 &+& a_{n -1} \, b_1 &+& a_{n -2} \, b_2 &+& \cdots &+& a_0 \, b_n \end{eqnarray}です。ここで$n \to \infty$とすると、 \begin{eqnarray} \lim_{n \to \infty} c_n &=& (a_0 + a_1 + a_2 + \cdots ) \, b_0 \\ &&+ (a_0 + a_1 + a_2 + \cdots ) \, b_1 \\ &&+ (a_0 + a_1 + a_2 + \cdots ) \, b_2 \\ &&+ \cdots \\ &=& (a_0 + a_1 + a_2 + \cdots)(b_0 + b_1 + b_2 + \cdots) \\ &=& \left( \sum_{p=0}^\infty a_p \right) \left( \sum_{q=0}^\infty b_q \right) \end{eqnarray}となります。