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東大 2020年 前期 理系 第1問

a,b,c,pを実数とする。不等式
\begin{eqnarray}
ax^2 + bx + c &>& 0 \\
bx^2 + cx + a &>& 0 \\
cx^2 + ax + b &>& 0
\end{eqnarray}
をすべて満たす実数 xの集合と、 x > pを満たす実数 xの集合が一致しているとする。


(1)  a,b,cはすべて0以上であることを示せ。
(2)  a,b,cのうち少なくとも1個は0であることを示せ。
(3)  p=0であることを示せ。

前置き

3つの不等式を全て満たす xというのが曲者です。簡単に表せそうにありません。
その一方、問題文に気になる表現があります。
「すべて~であることを示せ」
「少なくとも1個は~であることを示せ」
の箇所です。
「全ての~が命題を満たす」の否定は「命題を満たさない~がある」です。
問題文の記述は、「背理法(悖理法、帰謬法)を使ってくれ」と言っているかのようです。

(1)の答案

 a,b,cのうち、いずれか1つが負であると仮定します。
このとき、 x^2の係数が負となった不等式を満たす xは、

  • 存在しない *1
  •  \alpha < x < \beta *2

のいずれかとなります。
いずれの場合も、 x > pを満たす xの集合と一致することはあり得ません。

よって、
 a,b,cは全て0以上である
ことが示されました。

(2)の答案

 a,b,cの全てが0でないと仮定します。
このとき、不等式を満たす xは、

  • 全ての実数 x *3
  •  x < \alpha, \ \beta < x *4

のいずれかとなります。
いずれの場合も、 x > pを満たす xの集合と一致することはあり得ません。

よって、
 a,b,cのうち、少なくとも1個は0である
ことが示されました。

(3)の答案

小問(1), (2)により、
\begin{equation}
a \geqq 0, \quad b \geqq 0, \quad c \geqq 0
\end{equation}かつ

 a,b,cのうち少なくとも1個が0である
ので、
\begin{equation}
c = 0
\end{equation}としても一般性を失いません。

このとき、3つの不等式は、
\begin{eqnarray}
ax^2 + bx &>& 0 \tag{3.1} \\
bx^2 + a &>& 0 \tag{3.2} \\
ax + b &>& 0 \tag{3.3}
\end{eqnarray}となります。

式(3.1)を変形すると
\begin{equation}
x(ax + b) > 0
\end{equation}です。
 a > 0の場合、 b \geqq 0なので、式(3.1)を満たす xは、
\begin{equation}
x < -\frac{b}{a}, \ 0 < x
\end{equation}となります。
 a = 0の場合、 b > 0であれば、式(3.1)を満たす xは、
\begin{equation}
x > 0
\end{equation}となります。*5

式(3.2)について考えます。
 b > 0 かつ a > 0の場合、全ての実数 xが式(3.2)を満たします。
 b > 0かつ a = 0の場合、式(3.2)を満たす x
\begin{equation}
x \ne 0
\end{equation}です。
 b = 0の場合、 a > 0であれば全ての実数 xが式(3.2)を満たします。*6

式(3.3)について考えます。
 a > 0の場合、式(3.3)を満たす x
\begin{equation}
x > -\frac{b}{a}
\end{equation}となります。
 a = 0の場合、 b > 0であれば全ての実数 xが式(3.3)を満たします。*7

以上より、3つの不等式を全て満たす$x$は、
\begin{equation}
x > 0
\end{equation}となります。
これが
\begin{equation}
x > p
\end{equation}と一致するので、
\begin{equation}
p = 0
\end{equation}となります。

講評

背理法を用いることで、随分と易しく解けた感じがあります。
小問(1), (2)があったので、背理法を用いる発想になったのだと考えます。
小問(3)の見通しが立てられたのは、小問(1), (2)があればこそです。
これが小問(1), (2)がなく「 p = 0を示せ」とだけだと、途方に暮れていたでしょう。
数学オリンピック級です。

また、数学の問題でありながら、計算がほとんど出て来ない、珍しい問題でした。

*1:判別式 D \leqq 0の場合です。

*2:判別式 D > 0の場合です。

*3:判別式 D < 0の場合です。

*4:判別式 D \geqq 0の場合です。

*5: a=b=c=0は不等式が成り立たないので除外します。

*6: a=b=c=0は不等式が成り立たないので除外します。

*7: a=b=c=0は不等式が成り立たないので除外します。